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荒野の一ドル銀貨―ブログ版
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ひつじ

平凡なひつじです。
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2004.02.22.定演ルポ・3
水面を走るとかげがいる。確かバジリスクといって、「右足が沈む前に左足を出す」という机上の空論を本当にやってのけてしまう、かなりのとかげである。

いったいどういう状況で彼がこの技術を使うのか、興味は尽きないが、いずれにしろあまり余裕はないのではないか。どうも数メートルから十メートルくらいがその限界とのことで、真偽は定かでないけれど、そこから相当に体力を消費するらしいことがわかるし、同時に、まだ水面にいるときに気を抜くとおそらくただちに沈むのだろうから、張り詰めた集中力も要求されるはずなのだ。

かなり決死なフィールである。向こうっかわの岸に行くのに迂回するのが面倒である、程度のことでは出せないはずだ。いったん走り始めたら、行き着くところまで止まれないのである。

まさにこれだった。

かっこよさげな演奏が、撤去作業が、会計としての仕事が、ひさしぶりに大人数でやる打ち上がりが、と、眼前にはさまざまに大事な一瞬が立ち現れていた。

絶望的なカオでステージを去り、ソデにおさまって虚無的な表情を浮かべてばくぜんと空中を呼吸していた私は、「だめなもんはだめだ」、と言い捨てたのち、せまい空間に閉じこもって亀の相手でもしていたいこころをむりぢいに奮い立たせ、水面へとダッシュした。

ことさらに背筋を伸ばし、靴音を高く響かせ、つかつかと歩き回り、きわめて事務的に費用を清算し、本番が終わるだいぶ以前に控え室でのゴミの収集を始め、忘れ物をチェックし、会場の人に丁寧に例を述べ、カーに乗り込んで満載の機材を守り、十時の打ち上げまでにコンビニでゴルゴ13に真剣に取り組み、打ち上げ会場ではおおいに食いかつ飲んだ。

走り始めたら止まってはいけない。少しでも気を抜けばとたんにあんこくへと落ち込んで。ゆく。のだ。会計を担当するものは参加者から会費を巻き上げる関係上、少なくとも計算能力だけは鈍らせてはいけない、という制約があったのだけれど、知ったことではない、アルコール以外にいったいなにが、誰がこのオレのあんこくを救ってくれるというのだ! たてつづけにビールを数杯、それで世界に薄い膜をかけてくれる。まもなく酒精がやさしくこころを包みはじめた。

本当はいろんな人といろんな話がしたかった。けれどそれもかなわない、なぜと言って、ろくに演奏を聴いていないからだ。楽しみにしていた先輩のいくつかのバンドを、くだらないこと、つまり大して役にも立っていない仕事だとか、弾いている姿勢を鏡の前でチェックすることなどでつぶしていたからだ。一年生の成長・緊張ぶりを振り返りもしたかったのに、ちっともステージを見てい。なかっ。た。

この日はどういうわけか、特に一年生の多くいる辺りが、いつになく意味もなく盛り上がっていた。だがその半分くらいは、水面を駆け抜けるような、追い詰められた輝きだったのではないか。そんな気がした。

二次会でなかば本当に何もかも忘れて、飲みかつ食いかつしゃべり、懸念された会計もきちんと計算し、朝まで会話にうち興じて、もうこうなったら部室にでも行くか、という気になって、友達を二人ともなって千葉大学じゃず研究会部室に立ち寄った。

朝から練習のサッカー部が連れてきていたらしき、巨大なダルメシアン犬におびえながら部室に入った。入り口すぐの連絡用ノートを見ると、大きな字で、「もっと 上手く 成りたい。」とあった。

沈んだ先、水底深くから聞こえてくるような声だった。自分に納得のいかなかったすべてのものを代弁するような。「涙の数だけ強くなれる」、そんな気はあまりしなくても、路頭にまよいながらも歩くことだけはやめないような。

あとひと月もすればまた新入生が来る。

去年の初夏、ひとりでも多く残るといい、楽しみだ。などと書いていたけれど、どんなにやってもじぶんはだめなのではないか、あるいは、自分はセンスに欠けるのではないか、あるいは、何もじゃずという方法によらなくてもじゃず研の先輩・友人たちと楽しく過ごすことはできるのではないか? という、くだらない、けれど恐るべき声に屈したとき、私もまたここから消えることになる。気を抜けはしない。






そう書いて締めくくるつもりでいた私はしかし実のところ、定演の三日後には、アマゾン川を自在に泳ぐアマゾン川いるかが赤い水中でくぴらくぴらたわむれまわるさまを見て、生命の深秘にひたっていた。

決意は得意、逃避はもっと得意である。

今年はどんな新入生が来るだろうか。
花粉の少ない春の日であった。
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